雰囲気でBibTeX入門(その2)
(2021/03/06)
主に数学系向けの内容を含む部分があります。
目次
- 文献管理とBibTeXエディタ
- 文献情報の入力と引用の仕方
- bstファイル
- 文献の識別と分類(飛ばしてもいい)
文献管理とBibTeXエディタ
自分専用の文献データベースとなったmyref.bibをメモ帳で編集するのは、文献が膨大になってくると大変面倒である。そのためBibTeX用の文献管理ソフトを併用するとよい。たとえば
- JabRef(Win, Linux, Mac)
- BibDesk(Mac専用)
- Bibcompanion(Mac専用)
などがある。今はJabRefを使ってみる。
あたりを参考にした。
JabRefは公式サイトからダウンロードできる。Javaで動くのでJavaが入っている必要がある。 インストールが終わったら、JabRefを開いてOptions->Preferenceと進み、Generalタブの中のLanguageを「Japanese」、Default encodingを「UTF-8」にする。再起動すれば日本語になってる。
JabRefはパソコン内にダウンロードした文献の管理にも使えるらしい。 その他詳しい使い方はまた今度。
また、arXiv IDやMR IDを\cite
するだけで、自動でarXivやMathSciNetから文献情報をダウンロードしてくれるプログラムも存在する。
文献情報の入力と引用の仕方
- LaTeX2e美文書作成入門 改訂第8版
- LaTeX参考文献処理(BibTeX)-文献データベースの作成と参照方法-
- [BiBTeX]BibTeX 概要 - 今西衞研究室
を参考に。
BibTeX形式の文献情報は、自分で入力しても良いが、
- 雑誌の出版社(Springer, Elsevier, etc.)のページ
- MathSciNet(数学の論文データベース)
- zbMath(数学の論文データベース)
- iNSPIRE HEP(物理学の論文データベース)
- ADS(天体物理学の論文データベース)
- CiNii(主に日本語の文献のデータベース。英語の論文のデータもある)
- Google Scholar
- arXiv
- Mendeley(文献管理ソフトMendeleyからの出力)
などからも手に入れることができる。ただし、文献のBibTeXデータはこれらの情報提供元によって、形式が異なることが多い(参考:BibTeX用の文献データベース - 武田史郎のウェブログ)。
基本的な形は
@エントリー名 { 引用キー,
フィールド名 = {フィールドの中身},
}
である。フィールドの中身を囲う{ }
は" "
でも良い。
エントリー(文献の種類)には、主に次の15種類ある。
エントリー | 概要 |
---|---|
Article | 雑誌記事や論文誌の論文 |
Book | 出版社のある書籍 |
Booklet | 出版社のない書籍 |
Inbook | 本の一部を参照するときに使う |
Incollection | 本の一部でそれ自身に表題があるもの |
Proceedings | 学術会議のプロシーディング(講演要旨集) |
Inproceedings | 学術会議のプロシーディング(講演要旨集)の一部 |
Conference | 学術会議の会議録 |
Masterthesis | 修士論文 |
Phdthesis | 博士論文 |
Techreport | 研究機関の発行するテクニカルレポート |
Manual | マニュアル |
Unpublished | 公式な出版物ではないもの |
Misc | そのほか |
Comment | コメント用。ここに書いたものは無視される |
フィールドの種類はいくつもあるが、各エントリーに対して必須フィールド・任意フィールド・無視されるフィールドであるかどうかが決まっている。
- 必須フィールド:必要なフィールド。記述がなければエラーが出る。
- 任意フィールド:記述があれば文献情報として出力されるが、無くてもいい。
- 無視されるフィールド:上記以外のフィールドはすべて無視される。主に概要やURLの情報などのメモとして使われる。
ただし、どのフィールドが有効なフィールド(無視されないフィールド)なのかは使用しているbstファイルに依存する。例えば、最も標準的な plain.bst(日本語版は jplain.bst)では以下のフィールドが有効である。
フィールド | 概要 |
---|---|
author | 著者 |
editor | 編集者 |
title | 本・論文・記事のタイトル |
journal | 雑誌 |
volume | 雑誌や本の巻 |
series | 本のシリーズ |
number | 雑誌の号やシリーズ本の号 |
edition | 本の版 |
chapter | 章番号、節番号 |
pages | ページ |
publisher | 出版社 |
address | 出版社や学術会議の開催場所 |
month | 出版月 |
year | 出版年 |
booktitle | 文献がほんの一部であるときの本の名前 |
institution | テクニカルレポートの発行機関 |
type | テクニカルレポートの種類 |
organization | 学術会議の主催やマニュアルの発行元 |
howpublished | 特殊な出版形態をとる場合の説明 |
school | 学位論文の大学 |
note | その他何でも出力したいこと |
key | 著者名がないときの並び替えに使う |
yomi | 日本人著者の読み。jplain.bstで有効 |
これら以外は(j)plain.bstでは無視される。例えば、memo = {メモ欄}
と書いていても出力には反映されないので、しばしばメモ用に用いられたりする。もちろん、使用するbstファイルによって有効なフィールドは異なり、
- crossref
- language
- url
- eprint
- doi
- mrnumber
- zbl
- issn
- isbn
なども用いられる。より詳しくは、冒頭の参考文献やFormat - The quick BibTeX guideを参照されたい。
文献情報をbibファイルに書き込んでいく際、いくつかの注意点がある。
- LaTeXでのコメントアウト記号
%
は、BibTeXではコメントアウトではない。@エントリー名{…}
の外側は無視されるのでそこに書くか、@Commentの中に書くか、memoフィールドの中身に書くかする。 - エントリー名やフィールド名は大文字でも小文字でもかまわない。フィールド名を並べる順番も結果に影響しない。
- 引用キーは大文字と小文字を区別する。コンマ以外なら、半角の記号や漢字が混ざっていても大丈夫。
- title内などで大文字にしていても、使用するbstファイルによっては参考文献リストでは小文字になったりする。強制的に大文字にする必要があるものは、{E}nglishや{LFG}のように{…}で囲む。
- 名前などでアクセント記号をつける場合や title で数式を用いる場合も、{…}でくくる必要がある。その他、出力時に変更を許したくない情報は{…}でくくっておくとよい(波括弧で囲まれた部分を一文字のように扱う)。
- 複数著者や編者がいる場合は、A and B and C and Dのようにすべての名前の間にandをいれる。多すぎる場合は、最後を and others としておくと、英文では「et al.」、和文では「ほか」と付く。
- 姓にスペースが入る場合「名 姓」ではなく「姓, 名」としてauthorフィールドに書き込む。Robert Van Valinではなく、Van Valin, Robertと書く(でないとValinが姓、Vanがミドルネームとみなされる)。またJr.やIIIなどは、Van Valin, Jr., Robertのように姓と名の間にいれる。
- 日本人名の場合は、姓→名の順で表示したいので「姓 名」と書き込む。jplain.bstなどのpBibTeX標準のbstファイルでは、日本人名の姓と名の間の空白が取り除かれる。
- 同一著者の異なる名義がある場合、参考文献での並び替えが期待通りにならない可能性もある。例えば著者がDonald E. KnuthともD. E. Knuthとも名乗っているときは、後者をD[onald] E. Knuthとしておく。並び替えのとき記号
[
と]
は無視され、Donald E. Knuthとして並び替えられる。 - 著者が日本人名の場合、yomiフィールドを使って読み方を指定する。著者が「米田 信夫」の場合、
yomi = {Nobuo Yoneda}
とすれば欧文の著者に交じって並び、yomi = {よねだ のぶお}
とすれば欧文の著者が並んだあとに和文の著者が並ぶ。 - 日本語文献だと、例えばjalphaスタイルでのラベルが[米田54]にならず、yomiフィールドの入力によって[Yon54]だとか[よねだ54]だとかになってしまう。この場合、bibファイルの冒頭に
@preamble{"\newcommand{\noop}[1]{}"}
と書き、yomiフィールドをyomi = "{\noop{よねだ のぶお}米田}"
のように書けばよい。詳しくは美文書11.10節を参照。 - etc…
引用の仕方は、BibTeXを用いる場合でも変わらず \cite[コメント]{引用キー}
を使ってできる。BibTeXを使えば、一度本文中で\cite
したものは自動で参考文献に並ぶ。引用してないものを参考文献に載せたいときは、本文の \bibliography
より前に \nocite{引用キー}
を書いておけばよい。\nocite{*}
と書けばbibファイルにあるすべての文献を掲載することができる。
bstファイル
- LaTexの参考文献表示スタイルについて
- Bibtex bibliography styles - Overleaf
- The quick BibTeX guide
- [BibTeX] スタイルファイルのレイアウトサンプル - 今西衞研究室
を参考にされたい。
BibTeX標準のbstファイル:
- plain:一番シンプルなもの。ラベルは番号
- alpha:plainと比べてラベルが[Kin80]という形になる
- abbrv:plainと比べて著者が省略された形になる
- unsrt:引用順に参考文献を並べる
- apalike, acm, ieeetr, siam:その他各学会用?
pBibTeX標準のbstファイル:
- jplain, jalpha, jabbrv, junsrt:それぞれの日本語対応版
- jname:「[Kin80] 木下:理科系の作文技術…」の形式で出力される
- jipsj, jorsj, tieice, tipsj:その他各学会用
数学系の人にとっては、後述のMathSciNetとの連携から amsplain.bst / amsalpha.bst も使われる。どのように出力されるかは、Full bibliography styles compilationでサンプルを見ることができる。
日本語文献を含む場合に用いるbstファイルとして、武田史郎先生による jecon.bst がある。大きな特徴として他のbstファイルよりカスタマイズが容易にできるように設計されており、(経済学用とあるが)自分で改変して好みの出力にしやすい。
そのほか、好みの表示を得るためにbstファイルを直接編集したいという人には
- Bibtexのスタイルファイル:bstファイルの文法
- 日本語と英語を混ぜられるようにbibtexスタイルファイルを改造しよう
- [BiBTeX] bst ファイルのカスタマイズ - 今西衞研究室
- Tame the BeaST
が参考になる。が、あまりおすすめはされない。文献リストのカスタマイズについては雰囲気でBibTeX入門(その3)も見てみてください。
文献の識別と分類
文献にはさまざまな情報が付随し、その識別と分類がなされている。例えば、標準でないフィールドurl, doi, eprint, mrnumber, zblnumber, issn, isbnの中身として提供される情報など。
デジタルオブジェクト識別(Digital Object Identifier; DOI)
デジタルオブジェクト識別子(Digital Object Identifier; DOI)は、インターネット上のドキュメントに恒久的に与えられる識別子のこと。識別子の前に “https://doi.org/” をつければ、そのドキュメントのURLになる(以前は “http://dx.doi.org/” だったが、現在これは推奨されていない)。
DOIを持つ文献は、URLよりもDOIで表記するべきと思われる。
journal article については最近 DOI 情報を含んでいる文献データが多いと思います。DOI は論文の掲載場所を一意に表す役割をはたしているので、最も重要な情報ではないかと思います。仮に他の情報が掲載されていないくても、DOI さえわかれば他の情報は全て DOI から探せますので。上に挙げたソースでは DOI を提供しているものとしていないものがありますが、もし文献情報を提供するのなら(journal articleについては)必ず DOI は提供してもらいたいと思います。(BibTeX用の文献データベース - 武田史郎のウェブログより引用)
BibTeXでは、doiフィールドが用いられる。
arXiv ID
arXiv identifierは、プレプリントサーバー arXiv で用いられる識別子。2007年3月までの旧式(arXiv:math.DG/0211159という形のもの)と2007年4月以降の新式(arXiv:0711.4630v2という形のもの)がある(参考:arXiv - wikipedia)。主要なbstファイルには、このarXiv IDを出力するフィールドをサポートしたバージョンがある:
BibTeXでは、eprintフィールドが用いられる。
MR番号
MathSciNetはアメリカ数学会 (AMS) が提供する、世界の数学文献・数学論文をカバーする包括的な書誌・レビューデータベース。 MR番号とは、MathSciNetの各記録物に付与されているMathematical Review (MR)データベース固有の番号のこと。
BibTeXでは、mrnumberフィールドが用いられる。
Zbl番号
zbMATH(旧称Zentralblatt MATH)は数学の文献・論文などに関する抄録、評論サービス。ヨーロッパ数学会 (EMS) などにより編集、運営されている。数学の論文に関するデータベースとしてはMathSciNetと双璧をなす。Zbl番号とは、zbMathに記録されている文献の固有番号のこと。
BibTeXでは、zblフィールドが用いられる。
Mathematics Subject Classification (MSC)
Mathematics Subject Classification (MSC)は、MRとzbMathが共同で開発している、数学研究文献をその研究内容に応じて分類する枠組み。約10年ごとに更新されていて、現行ではMSC2020が用いられている。
ほか
ISSN (International Standard Serial Number: 国際標準逐次刊行物番号) は、雑誌を識別するための国際的なコード番号。BibTeXでは、issnフィールドが用いられる。
ISBN (International Standard Book Number: 国際標準図書番号) は、書籍および資料を識別するための国際的なコード番号。BibTeXでは、isbnフィールドが用いられる。
問題点
しかし、標準のplain.bstはこれらのフィールドをサポートしておらず、こうした情報を出力させるためには他のbstファイルを使用するか、bstファイルを自分で編集しなければならない。
これらをすべて自由に出力したければ、BibLaTeXを用いるのが良いかもしれない:
こういった面倒なことを解決するためのBibulousというのも開発されているようだ。