はたらく双対性

和と積で閉じる部分集合のPrime Avoidance

(2019/07/31 14:13)


Prime Avoidanceを和と積で閉じるがイデアルとは限らない部分集合に適応する機会があったので忘れないうちに……

イデアルの演算と素イデアルの関係について、prime avoidanceと呼ばれる次のような命題があります。

可換環$A$のイデアル$I, P_1,\dots,P_r$に対して、$P_1,\dots,P_r$のうち素イデアルではないイデアルは高々二個であるとする。このとき、$I$がどの$P_i$にも含まれなければ、元$x\in I$でどの$P_i$にも含まれないものが存在する。$\Box$
(松村『可換環論』、第1節演習問題1.6)

よりシンプルな場合で対偶を考えると、イデアル$I$と素イデアル$P_1,\dots,P_r$に対して、$I\subseteq \bigcup_i P_i$が成り立てば、$I\subseteq P_i$となる$i$が存在するということです。

上では$I$はイデアルですが、どうやら加法と乗法で閉じることだけで十分なようです。

和と積で閉じるような可換環$A$の部分集合$S$と、素でないイデアルは高々二個であるような有限個のイデアル$P_1,\dots,P_n$を考える。このとき、$S\subseteq\bigcup_i P_i$ならば,ある$i$が存在して$S\subseteq P_i$が成り立つ。$\Box$
(Bourbaki, ``Commutative Algebra'', Chapter 2, Section 1, Proposition 2)

$n$についての帰納法により証明する。$n=1$のときは明らかに成り立つ。$n\geq 2$とし、$n-1$個の素イデアルに対しては主張が成り立つとする。$S\subseteq\bigcup_i P_i$とする。
まず、すべての$j$で$S\cap P_j \nsubseteq \bigcup_{i\neq j} P_i$が成り立つとする。各$j$に対して$y_j \notin \bigcup_{i\neq j} P_i$なる$y_j \in S\cap P_j$が取れる。ここで$k\in I$を、$n>2$のとき$P_k$が素イデアルとなるようにとり、$n=2$のときは任意にとる。このとき$z=y_k+ (y_1 \dotsm y_{k-1} y_{k+1} \dotsm y_n)$とおくと、$S$は和と積で閉じるから$z\in S$である。 $j\neq k$に対して、$y_1 \dotsm y_{k-1} y_{k+1} \dotsm y_n \in P_j$であるが、$y_k \notin P_j$だから$z\notin P_j$となる。$j=k$に対しては、$n>2$のとき$P_k$が素イデアルであることから$y_1,\dots,y_{k-1}, y_{k+1} ,\dots, y_n \notin P_k$より$y_1 \dotsm y_{k-1} y_{k+1} \dotsm y_n \notin P_k$となり、$y_k\in P_k$だから$z\notin P_k=P_j$となる($n=2$のときは明らか)。しかしこれでは$S\subseteq\bigcup_jP_j$に矛盾する。
よって$S\cap P_j \subseteq \bigcup_{i\neq j} P_i$となる$j$が存在する。このとき$S=\bigcup_i (S\cap P_i) \subseteq \bigcup_{i\neq j}P_i$となり、帰納法の仮定からある$i$ ($\neq j$)が存在して$S\subseteq P_i$となる。$\blacksquare$

証明はたぶんどの本も似たような形なのですが、この定理がイデアルよりも弱い条件で成り立つと明記している本は見かけないように思います。

今日はこのへんで。


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